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東京地方裁判所 昭和46年(レ)330号 判決 1972年9月13日

控訴人 高柳和正

被控訴人 株式会社布施商会

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取消す。

2  被控訴人の請求を棄却する。

3  訴訟費用は第一、二審を通じて被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

(一)  被控訴人は昭和四三年五月頃控訴人からの注文により控訴人の住居のタイル補修等の工事(以下「本件工事」という)を代金二五万六〇〇〇円で請負い、同年五月一六日約定通りの工事を施工完成した。

(二)  一方被控訴人は同月頃控訴人が代表者をしている光和陶器販売株式会社(以下「訴外会社」という)の注文により、右訴外会社の光和荘のタイル工事(以下「別工事」という)を代金一〇万二〇〇〇円で請負い、同月六日約定通りの工事を施工完成した。

(三)  昭和四三年一二月五日右訴外会社は本件工事の請負代金債権に対する第三者弁済及び別工事の請負代金債権に対する弁済として、被控訴人に対し合計金二〇万円を支払つたがその際同会社は右両債務につき、弁済充当の指定をしなかつた。

(四)1  被控訴人は右金員を受領した際内金一〇万二〇〇〇円を別工事の代金債権に充当し、残額金九万八〇〇〇円を本件工事の代金債権に充当し、その旨を直ちに控訴人に対し意思表示した。

2  仮に右主張が容れられないとしても、別工事は本件工事より先に完成し、その代金債権の弁済期が先に到来したのであるから、右金二〇万円は民法四八九条三号に準じて右1の通りの順序で充当さるべきである。

(五)  よつて、被控訴人は控訴人に対し本件工事の代金債権の残額金一五万八〇〇〇円及びこれに対する本件工事完成の後である昭和四三年六月一日から完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因(一)ないし(三)の各事実(但し、(一)、(二)のうちそれぞれの工事完成の日時は除く)は認めるが、同(四)1の事実は否認する。

三  抗弁

昭和四三年八月頃又は同年一二月三日、控訴人、被控訴人及び訴外会社は本件工事、別工事の両工事代金を合せて金二〇万円に減額し、訴外会社がこれを支払う旨合意し、同会社は同月五日右金員を被控訴人に支払つた。

四  抗弁に対する認否

抗弁事実のうち、被控訴人が訴外会社から控訴人主張の日に金二〇万円の支払を受けたことは認めるが、その余の事実は否認する。

右金員は請求原因(四)の通りの順序で弁済充当されたものである。

第三証拠<省略>

理由

一  請求原因(一)ないし(三)の各事実(但し、(一)、(二)のうち、それぞれの工事完成の日時は除く)は当事者間に争いがない。

二  そこで抗弁につき按ずるに、原審、当審証人加藤秀明及び当審証人安藤信昭の各証言、当審における控訴人本人及び被控訴人代表者本人の各尋問の結果によれば、昭和四三年八月ごろ、訴外会社の社員である右安藤が、そのころ本件工事代金を控訴人に請求していた被控訴人の社員の右加藤に対し、又同年一二月三日ごろ控訴人が被控訴人代表者に対し、それぞれ本件工事及び別工事の請負代金の減額方を要求した事実は認められるが、進んで控訴人主張の減額の合意が成立したとの当審証人安藤信昭の証言及び控訴人本人尋問の結果は、原審、当審証人加藤秀明の証言及び当審における被控訴人代表者本人尋問の結果に照らしてたやすく措信できず、他に控訴人主張の合意の成立を認めるに足りる証拠はない。

しかして、請求原因(四)1で被控訴人の主張する事実についてはこれに沿う原審証人加藤秀明の証言は当審証人安藤信昭の証言、当審における控訴人本人尋問の結果及び弁論の全趣旨に照らしたやすく措信できず、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。

そこで訴外会社の支払つた金二〇万円をいずれの債務に充当すべきかを考えるに当審証人安藤信昭の証言及び当審における控訴人本人尋問の結果によれば、訴外会社はその実質において代表者たる控訴人の個人企業というに近く、本件工事及び別工事についても、注文者が一は個人であり他は会社であることの差別にかかわりなく、両工事による被控訴人に対する請負代金債務を、本件工事分については第三者弁済としてではあるが、訴外会社の計算上は両者を含め金二〇万円の経費として計上し、会社振出にかかる同額の小切手を交付してその支払をしていることが認められるが、かような場合には債務者が同一である場合につき定めた民法の法定充当の規定を準用して決すべきである

と解すべきところ、当審における被控訴人代表者本人尋問の結果及びこれによつて真正に成立したと認められる甲第二号証(但し、被控訴人作成部分)及び甲第四号証によれば、別工事は昭和四三年五月六日、本件工事は同月一六日に完成したことが認められ、(なお、両工事とも引渡を要しないことは、弁論の全趣旨により明らかである。)、右事実によれば別工事の方が先に完成していることが明らかであるから、これが請負代金債務の弁済期は本件工事のそれよりも先に到来したものというべきである(弁済期に関する約定については格別の主張がないので、両工事ともその完成と同時に、これに対する各請負代金債務の弁済期が到来したものと認める。)。

そうすると、訴外会社が被控訴人に支払つた金二〇万円については、民法四八九条三号を準用して、まず別工事の代金債務金一〇万二〇〇〇円に充当されその残額金九万八〇〇〇円が本件工事の代金債務に充当されるものと解すべきである。

三  以上によれば、本件工事代金二五万六〇〇〇円のうち右金九万八〇〇〇円を差引いた金一五万八〇〇〇円及びこれに対する本件工事の完成の後であることが明らかな昭和四三年六月一日から民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める被控訴人の本訴請求は理由があるから正当として認容すべきである。

よつてこれと結論において同旨の原判決は相当であつて本件控訴は理由がないから民事訴訟法三八四条二項に従い棄却することとし、訴訟費用の負担につき同法九五条、八九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 横山長 松村利教 満田明彦)

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